
会社では社長と後継者。でも二人になると、父と子に戻ってしまいます
ビジネスコーチ&FPの矢頭聖子(合同会社コーチ・コンパス)です。
大阪を拠点に、関西・全国のファミリービジネスオーナーとお仕事しています。
今回から、ときどき「こんなご相談から」という形で、ファミリービジネスやセカンドライフなど、
私が関わっている領域の課題を取り上げてみたいと思います。
ここでご紹介する相談は、実際に起こりうる状況やこれまでの経験をもとに、
プライバシーに配慮して再構成したものです。
特定の個人・企業を示すものではありません。
父から、いずれ会社を継いでほしいと言われています。
私も、そのつもりで会社に入りました。
でも、経営について意見を言うと、父は、まだ分かっていないと言う。
こちらもつい感情的になってしまいます。
会社では社長と後継者なのに、二人になると結局、父と子に戻ってしまう。
第三者に入ってもらったほうがいいのでしょうか。
ファミリービジネスでは、珍しくない状況です。
新規事業をどうするか。人をどう育てるか。いつ経営を引き継ぐのか。
表面上は、経営について話しています。
ところが、その奥には別のものがあることがあります。
父親には、まだ任せるのが不安だ、自分が築いてきたものを簡単には変えてほしくない、
という思いがあるかもしれません。
子どもには、いつまで子ども扱いされるのだろう、自分を経営者として認めてほしい、
という思いがあるかもしれません。
経営についての意見の違いに、親子として積み重ねてきた感情が重なる。
ここが、一般企業の上司と部下とは違うところです。
ファミリービジネスには、家族、経営、所有という複数の関係性があります。
同じ二人でも、父と子。社長と社員。現経営者と後継者。将来の株主同士。
いくつもの関係が重なっています。
だから、今、私たちはどの立場で話しているのかが分からなくなることがあります。
社長として言った一言を、子どもは父親からの否定として受け取る。
後継者としての提案を、父親は自分のやり方を否定されたと感じる。
話の中身より、関係性のほうが先に動いてしまうのです。
こういうとき、では社長交代はいつにするのか、株式はどうするのか、と結論を急ぐ必要はありません。
その前に、話しておきたいことがあります。
父親は、この会社の何を残したいのか。
後継者は、何を受け継ぎ、何を変えたいのか。
お互いに何を期待しているのか。そして、何を不安に思っているのか。
いつ渡すかの前に、何を渡したいのかを話してみる。
ここから事業承継が動き始めることがあります。
家族だけで話せるのであれば、それに越したことはありません。
でも、家族だからこそ話せないこともあります。
いつもの親子関係に戻ってしまう。昔の出来事が出てくる。
どちらが正しいかという議論になる。
そんなとき、第三者が入る意味は、正解を教えることではありません。
父親の味方になることでも、後継者の味方になることでもありません。
二人の間に、いつもとは違う話し方ができる場をつくることです。
私自身、ファミリービジネスの支援では、この場をつくることをとても大切にしています。
会社を渡す。株式を渡す。役職を渡す。
もちろん、それらも事業承継です。
でも、もう一つ渡していくものがあります。
なぜ、この会社を続けてきたのか。
何を大切にしてきたのか。
次の世代には、何を残したいのか。
という、言葉になりにくいものです。
そして後継者からも、何を受け継ぎたいのか、自分の世代では何を変えたいのかを返していく。
その対話そのものが、承継のプロセスなのだと思います。
もし親子で事業承継の話をすると、いつも感情的になってしまうなら。
いったん、いつ承継するかを横に置いて、こんな問いから始めてみてはいかがでしょうか。
この会社について、相手にまだ伝えられていないことは何だろう。
すぐに答えを出す必要はありません。話せるところから、少しずつ。
事業承継は、会社を渡す前に、話せる関係をつくるところから始まることがあります。
この記事を書いたのは、ビジネスコーチ&FPの矢頭聖子です。
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