News(コラム/チーム支援)

チーム支援 2026.11.03

事業承継を支える家族会議。チームコーチングができること

ビジネスコーチ&FPの矢頭聖子(合同会社コーチ・コンパス)です。
大阪を拠点に、関西・全国のクライアントとオンラインでお仕事しています。

「事業承継で、家族の意見がまとまらない」
「経営には関わっていない親族とも、話し合った方がよいのでしょうか?」

ファミリービジネスでは、こうした問題が生じることがあります。
先日、知人である日本FBMコンサルティング代表の大井大輔氏が、
PRESIDENT Onlineに寄稿された記事を読みました。

ジャパネットたかたと大塚家具の対照的な事業承継を題材に、ファミリーガバナンスの重要性を論じた記事です。

https://president.jp/articles/-/121093

その中で、私が特に注目したのは「家族会議」と「ファミリー憲章」についての記述でした。

記事では、家族の対話について次のように表現されています。

「この泥臭くも温かい対話の積み重ねこそが、将来のお家騒動を未然に防ぎ、
一族と企業をひとつに束ねる『最強のガバナンス』となる。」

この一節を読み、私は思いました。

「これ、チームコーチングの出番では?」

今回は、ファミリービジネスにおける家族会議と、チームコーチングの可能性について考えてみます。

1.ファミリービジネスには、3つの顔がある

ファミリービジネスを理解する代表的な考え方に「スリーサークルモデル」があります。

ファミリービジネスには、3つの領域が重なっています。

ビジネス:経営や事業運営
オーナーシップ:株式や所有権
ファミリー:家族としての関係性や感情

例えば、父親が社長を退任し、娘が後継者になる場面を考えてみましょう。

父親には、長年育ててきた会社への思いがあります。
娘には、自分の経営方針を実現したいという希望があります。
経営に参加していない兄弟姉妹も、将来、株式を相続するかもしれません。

それぞれが「会社を守りたい」と考えていたとしても、その意味は同じでしょうか。

創業者の理念を守ること。
従業員の雇用を守ること。
家族の資産を守ること。
新しい事業に挑戦すること。

どれも大切です。

しかし、何を優先するかによって、判断は変わります。

経営上の合理性だけでは整理できない、家族としての思いや価値観があるのです。

2.家族会議は、何のために行うのか

家族会議というと、株式の承継や親族の入社、役員の選任などについて
話し合う場を想像するかもしれません。

もちろん、具体的なルールや方針を決めることは重要です。
しかし、私はもうひとつ、大切な役割があると考えています。
それは、家族が互いの価値観を理解し、対話できる関係性を育てることです。

例えば、こんな問いから始めることもできます。

「この会社があってよかったと思ったのは、どんなときですか?」
「私たちが家族として大切にしてきたものは何でしょうか?」
「10年後、どのような家族でありたいでしょうか?」

すぐに結論が出る問いではありません。
それでも、互いの話を聞くことで、これまで知らなかった思いに気づくことがあります。
家族会議は、何かを決めるための場であると同時に、家族自身を知る場にもなるのです。

3.なぜ、チームコーチングなのか

チームコーチングは、共通の目的を持つチームが、自分たちの関係性や協働のあり方を見直し、
成果を生み出す力を高めるための支援です。

ここでのクライアントは「チーム全体」です。

家族会議にこの視点を応用すると、問いの向かう先が変わります。
例えば、事業承継について話し合うとき。

「父親は何を望んでいるのでしょうか?」
「後継者はどのような経営をしたいのでしょうか?」
「兄弟姉妹は株式についてどう考えているのでしょうか?」

こうした個人の考えを理解することは重要です。

チームコーチングでは、さらに問いを広げます。

「私たち家族は、この会社とどのような関係を築いていきたいのでしょうか?」
「私たちは、意見が対立したとき、どのように向き合いたいのでしょうか?」
「私たちが次世代に引き継ぎたいものは何でしょうか?」

主語が「私」から「私たち」へ変わります。

個人の希望だけでなく、家族全体の関係性に目を向ける。

そこに、チームコーチングならではの可能性があると思います。

4.家族だからこそ、話せないことがある

家族会議には、一般的な企業の会議とは異なる難しさがあります。

会社では社長と役員という関係でも、家庭では親と子です。

会社で十分な実績を持つ経営者であっても、家族の中では「長男」や
「末娘」という役割が続いているかもしれません。

また、何十年も前の出来事が、今の意思決定に影響していることもあります。

「昔から兄の意見が優先されてきた」
「父はいつも私の話を聞いてくれない」
「どうせ自分の意見は通らない」

こうした思いがあると、会議を開いても、本当に大切なことが話されない可能性があります。

チームコーチングでは、発言の内容だけでなく、メンバー間で起きていることにも目を向けます。

例えば、父親が発言すると、他の家族が黙ってしまう。

そのとき、こんな問いを投げかけることがあります。

「今、少し沈黙がありましたね。普段のご家族の話し合いでも、似たことが起きていますか?」

普段の関係性が、その場にも現れているかもしれません。

誰かを責めるための問いではありません。

家族自身が、自分たちの関わり方に気づくための問いです。

ただし、家族の歴史には深い感情や個人的な傷つきが含まれることもあります。支援の範囲を見極め、必要に応じて他の専門家と連携することも大切です。

5.ファシリテーションとチームコーチングの違い

家族会議では、ファシリテーションも有効です。

以前のコラムで、ファシリテーションとチームコーチングの違いを
「誰の、何を支援しているのか」という視点から紹介しました。

ファシリテーションは、場とプロセスを支援する。
チームコーチングは、チームという一つのシステムを支援する。

家族会議でも、この違いが現れます。

例えば、ファミリー憲章をつくる場合。

ファシリテーションなら、次のような問いが考えられます。

「憲章には、どのような項目が必要でしょうか?」
「意見が分かれているのは、どの部分でしょうか?」
「全員が納得できるルールは何でしょうか?」

目的は、議論を整理し、合意形成を進めることです。

一方、チームコーチングなら、こんな問いになります。

「今、この家族には何が起きているのでしょうか?」
「私たちは、意見の違いをどのように扱っているのでしょうか?」
「この対話を通じて、私たちの関係性にどんな変化が生まれていますか?」

目的は、家族が自分たちの関係性を見つめ、対話する力を高めることです。

どちらが優れているという話ではありません。

家族会議で具体的なルールを決めたいなら、ファシリテーション。

家族が互いの関係性を見直し、今後も自分たちで対話できるようになりたいなら、チームコーチング。

実際には、両者を組み合わせることもあります。

大切なのは、何を変えたいのかによって、支援方法を選ぶことです。

関連記事
「ファシリテーション、グループコーチング、チームコーチング。何が違うの?」
https://www.coach-compass.com/facilitation-group-coaching-team-coaching

6.ファミリー憲章は、つくる過程にも価値がある

ファミリー憲章とは、家族が共有する理念や価値観、行動規範、事業との関わり方などを明文化したものです。

親族の入社条件、株式の保有、意思決定の方法などを定めることもあります。

こうしたルールは、将来のトラブルを予防する上で役立ちます。

しかし、私は憲章をつくるプロセスにも、大きな価値があると考えています。

例えば、「創業者の理念を大切にする」という一文を盛り込むとします。

そのとき、家族全員が同じ意味で理解しているでしょうか。

「私たちが考える創業者の理念とは何でしょうか?」
「変えてはいけないものと、変えてよいものは何でしょうか?」
「次世代は、その理念をどのように受け止めていますか?」

こうした対話を通じて、家族は自分たちの価値観を言葉にしていきます。

また、家族の状況は時間とともに変化します。

結婚、出産、相続、世代交代。
事業環境も変わります。

憲章を一度つくって終わりにするのではなく、定期的に読み返し、必要に応じて見直していく。

そのためにも、家族が対話を続けられることが大切です。

7.事業承継で、何を引き継ぎたいのか

事業承継では、経営権や株式、資産などを次世代へ引き継ぎます。

しかし、私はもうひとつ、引き継ぎたいものがあると考えています。

それは、家族が互いの違いを尊重し、話し合い、自分たちで未来を選択していく力です。

立派なファミリー憲章があっても、家族が対話できなければ、十分に機能しないかもしれません。

一方、意見が対立しても話し合える家族であれば、時代の変化に合わせて新しい答えをつくっていくことができます。

事業承継は、一度きりのイベントではなく、世代を超えて続くプロセスです。

その長い時間を支えるものとして、チームコーチングが貢献できる余地は大きいと感じています。

私自身、ファミリービジネスアドバイザーとビジネスコーチ、両方の立場から、このテーマに関わっています。

制度を整えること。
関係性を育てること。

その両方が、持続可能なファミリービジネスを支えるのだと思います。

最後に、ふたつの問いを置いておきたいと思います。

「あなたの家族は、会社の未来について話し合う前に、家族自身の未来について話し合ったことがありますか?」

「次世代に引き継ぎたいのは、会社だけでしょうか。それとも、共に未来を選んでいける関係性でしょうか?」

手法や制度を考える前に、そんな問いを持つことから始めたいと思います。

参考記事
PRESIDENT Online
大井大輔氏寄稿
「ジャパネット髙田明氏は正しかった…お家騒動→法人消滅した大塚家具とは真逆の『カリスマ創業者』の引き際」
https://president.jp/articles/-121093

コーチング・チームコーチング・研修についてはこちら
https://www.coach-compass.com/service

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